「私、伊崎さんのことを何も知りませんし…」

そう言ったひかるは、自分と目をあわせようともしなかった。

(一体、彼女の心の中には誰がいると言うんだ…?)

何としてでもいいから、彼女を振り向かせたい。

何としてでもいいから、自分のことを見て欲しい。

伊崎は心の中でそう誓うと、
「少しずつでもいいから、僕のことを知ってください」
と、言った。

その後の引き下がらない姿勢が効いたのか、最終的にはひかるは首を縦に振ってうなずいてくれた。

だけども、浮かない表情はそのままだった。

自分のことを見て欲しいから、ひかるに思いを伝えた。

少しでもいいから自分のことを思って欲しいから、ひかるに気持ちを伝えた。

その結果、動物園に出かけた時にひかるに振られてしまったのだった。
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