再見
 子供たちが自分の買い与えられた物ではしゃぎ喜ぶ姿を見て目を細めて微笑む。
父の行動はしかしそう言った類の物では決してなかった。
ただ家族をあらゆる物で満たし続ける、
そのことだけに意味があった。
戦後の貧しい日本で育ち、弟妹を、両親を、
そして妻子を守り働き、努力し続けてきた一人の男の、
それは習性にも似た、愛だった。
 何枚かは元々割れていたりするその丸いビスケットの素朴な味が祥子は好きだった。
それをゆっくり齧る祥子を見る訳でもなく、考え事をするでもなく、
向かい側で足を組み何処か一点を見つめる父の穏やかな笑顔。
そしてその父の、すぐ側ににるという途方もない安心。
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