再見
 福元は今夜も酒で、その丸く、
それでいて強靭な意志の浮かぶ顔を赤黒く染め、
ただ話し続ける。
彼の経験や耳にしたあらゆる出来事、
歴史上の人物から家族や友人の話、
そして時には亡き父とのエピソードまで。
祥子達を励ます為であると同時にそれは、
彼自身をも支えていた。
おそらく祥子とよりも長い時間を父と共にし、
家族とはまた違った絆を築いてきた男の、
どうしようもない無念と寂寥が、そこにはあった。
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