再見
 真っ黒な足が次々と通り過ぎる中、時々色が混ざる。
チェックや紺色のプリーツスカートの裾たちは、
おそらく全部祥子の知り合いだろう。
ほとんど海外で暮らしていた父と、面識のある子は少ないのに、
祥子の突然の悲しみに驚き、伝え合い、皆駆けつけてくれた。
ありがたいな・・そう思いつつも、顔は上げられない。
やはりただ黙々と、頭を下げ続ける。
 喪主である兄は、何だかすごく大人に見えた。
黒いスーツ姿でてきぱきと諸事をこなす。
一週間前、北京市内の病院敷地内の、
白い石造りの建物の中で父と対面した時、兄の目から溢れ出た涙。
子供の頃飼っていた猫のキースが死んた時。
兄が泣くのを見たのはその日以来二度目だった。
 
 通夜振舞いの並べられた畳敷きの部屋で、
あらためて挨拶をする兄の横に座り、母と三人、深々と頭を下げると、
父の大きな手が、頭を撫でてくれるような錯覚を覚え、
鼻の奥が急につんとして、吐きそうになった。
< 19 / 29 >

この作品をシェア

pagetop