再見
 今日は礼二郎の誕生日だった。
学校とアルバイトの為どこにも出かけられなかったが、
無理を言って少しだけ時間を取ってもらったのだ。
家かバイト先の前まで行くと申し出た祥子に、
駅前のロータリーで待つように言った礼二郎は、
いつものように二十分ほど遅れて愛車の水色のマウンテンバイクで現れた。
祥子の家からのすぐの、新しくできた地下鉄の駅前のバスロータリーは、
九時過ぎでも明るく人気も少なくない。
「サンキュ」
袋の中身はベイクドチーズケーキと小さな写真集だ。
祥子が唯一まともに焼くことのできるケーキで、
今回もかなり上手くできたと思う。
プレゼントには随分頭を悩ませた。
礼二郎は初めてきちんと『付き合う』ことになった男の子だし、
洒落ていて軽い感じの贈り物にしたかった。
四ヶ月前の祥子の誕生日には、
礼二郎は自分で選んだ祥子の知らないブランドの洋服をプレゼントしてくれた。
淡いピンク色のそれは、
果たして自分に似合う物なのか、単に彼の好みなのか図り兼ねたが、
祥子は素直に嬉しかった。
しかしお洒落な礼二郎らしい行為でありとても真似はできなかった。
それに祥子は礼二郎のようにアルバイトをしていない。
親からの小遣いで何かを買って、そのまま贈る気にはなれなかった。
 
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