再見
父の前に立ち、丁寧に焼香をする礼二郎を見つめる。
随分と長い時間手を合わせると、ゆっくりと顔を上げ、写真の中の父の顔を見上げる。
「優しそうな顔だな」
祥子の方に向き直ると、それこそ優しい声でそう一言告げる。
祥子は何も言うことができなかった。
寺の外の通りに置いた礼二郎のマウンテンバイクまで、彼を送る時も、
境内を歩きながら、やはり何も言えず、
学生服の裾をぎゅっと握ることしか出来なかった。
「電話してこいよ。な」
やっぱり優しい声でそう言うと、マウンテンバイクにまたがり、
祥子の頭に手をそっと置く。
「しっかりしろよ」
礼二郎は鞄を後ろにぶら下げる形で手を右肩に置くと、
ゆっくりとジグザクと走り出した。
ゆるい坂を登る背中に向かって、せめてお礼を言おうと口を開きかけたが、
祥子は結局一言も発音できなかった。
随分と長い時間手を合わせると、ゆっくりと顔を上げ、写真の中の父の顔を見上げる。
「優しそうな顔だな」
祥子の方に向き直ると、それこそ優しい声でそう一言告げる。
祥子は何も言うことができなかった。
寺の外の通りに置いた礼二郎のマウンテンバイクまで、彼を送る時も、
境内を歩きながら、やはり何も言えず、
学生服の裾をぎゅっと握ることしか出来なかった。
「電話してこいよ。な」
やっぱり優しい声でそう言うと、マウンテンバイクにまたがり、
祥子の頭に手をそっと置く。
「しっかりしろよ」
礼二郎は鞄を後ろにぶら下げる形で手を右肩に置くと、
ゆっくりとジグザクと走り出した。
ゆるい坂を登る背中に向かって、せめてお礼を言おうと口を開きかけたが、
祥子は結局一言も発音できなかった。