再見
 寒い。とにかく寒かった。
眠る前にもう一度バスタブにつかり、急いで毛布にくるまるのだが無駄だった。
爪先は冷え切って、まるで自分のものではないかのようにそこにある。
「ママ寒い」
「ほとんど何も食べないからよ。外からいくら暖めても中で燃やす物がなければ身体は温まらないわ」
百合子は布団の中で祥子の小枝のようになった身体を引き寄せると、
パサパサになった髪を優しく撫でた。
「柔らかくてあんなに綺麗だったのに・・髪の毛も栄養不足ね」
 百合子は馬鹿みたいに祥子を甘やかす父に代わって、
どちらかと言うと躾に厳しい母親だった。
父の不在の間、甘えた祥子がどんなにそこに入りたがっても、
不眠症気味の百合子は決して二人のダブルベットに祥子を寝かせてはくれなかったのに、
父が死んで一月が過ぎた頃、寝付けずに母の部屋に行くと、
「一緒に寝ましょう」と、やはり眠れずにいた百合子は父の場所の毛布をめくった。
以来ずっと二人で眠る。
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