再見
 美大を出てデザイン事務所に就職した兄は、
この春上海に新しく出来た事務所に転勤になった。
慌ただしいスケジュールの中、祥子達と過ごす為、
一人名古屋から出発させてもらうことにして帰って来たのだ。
「本当に明後日もう行っちゃうの?」
「ああ、祥子の卒業式までいてやれなくてごめんな。上海(あっち)も立ち上げにバタバタしてて大変だよ」
「祥子、お兄ちゃんがいるから東京の短大に決めたのに、こんなのあんまりだよ・・」
「俺なんていてもいなくても、どうせ一月もしたら電話もよこさなくなるよ、お前。
東京の女子大生が『お兄ちゃん』と遊んでる暇あるかよ」
 
 その夜は賑やかだった。
祖母と祖母の妹は折に触れ祥子と圭介の健康を案じ涙をこぼし、
近所に住む父の幼馴染みは思い出を語り酔いつぶれた、
がしかし、食卓はやはり明るい温かさに満ちていた。
 そして祥子はそこにも、父の持つ不思議な力を感じた。
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