だから、笑って。
お母さんの背中からそっとお兄ちゃんを覗いた。
「お兄・・・ちゃん・・?」
ベッドの上には、変わり果てた姿のお兄ちゃんがいた。
お兄ちゃんは、昔からバスケットボールのチームに所属していて、チーム内でも大活躍をする存在だった。
以前に試合を見にいったときは何回も得点を決めていて、チームの中で1番輝いているように見えた。
今はそんなお兄ちゃんの面影すら感じられない。
頭は包帯で包まれており、口には呼吸器が取り付けられていた。
手からは何本もの管が通っていた。
そして、頭の包帯にはうっすらと赤い何かがにじみ出ているように見えた。
「ひびきくんは、転んで路上に横たわっていた子供を助けようとして車と衝突したと近くにいた目撃者は述べておりました。」
医師は心もない声でただ事実だけを述べた。
お兄ちゃんは1人の子供を救うために、自分を犠牲にして交通量の多い道路に飛び出た。
そこへ運悪く大型ダンプカーがやってきて、お兄ちゃんは咄嗟に子供の上に覆いかぶさり思い切り轢かれたという。
お兄ちゃんが庇った子供は、多少骨折はしたものの、命に関わるほどの怪我ではないと医師が述べていた。
だけど、お兄ちゃんは・・・。
「正直、運次第ってところですかね…。生死をさまようギリギリのラインにいます。」
医師はカルテを見ながら淡々と告げる。
正直、何の罪もないはずの医師がとても憎んで見えた。