愛を知らない一輪の花
「はい。あの二階建ての茶色のです。」
透はアパート前の道沿いにウィンカーを付けて停車する。
「悪かったな。昼休憩もそこそこに急なヘルプまで頼んで。業務日報は来週までに出してくれればいいから、今日はもう寝ろ。顔色もあまり良くない。」
「では、お言葉に甘えて日報は来週までに提出します。実は今朝から少し貧血気味だったんです。今日はもう寝ます。送って下さってありがとうございました。お休みなさい。」
「ああ、おやすみ。また明日。」
お礼を言って階段を駆け上がる百合の背中を見送り、部屋の電気が点いたのを確認して透は家路へと車を走らせた。
車の中で、今日の案件の内容を思いだして深い溜息をついた。進まないやり取りに少し苛立ちながら、真剣なアイツの顔を思い浮かべるのだった。