友情結婚~恋愛0日夫婦の始め方~

シャワーから上がると、迷うことなくブラをつけ、リビングへ出て行った。

部屋はかろうじて暖かくなっている。

琢磨はまだ上半身裸で、ソファにぼんやりと座っていた。

「シャワー浴びる?」
極力普通な声色で、琢磨に話しかけた。

「……うん」

琢磨は気だるそうに立ち上がって、こちらを見た。

昨晩の熱がまだくすぶっている。
求められたらすぐにでも、琢磨に自分を開け渡せる。

のぞみは気付かれぬよう、小さくため息をついた。

「鳴ってる」
琢磨がつぶやいた。

「え?」
「スマホ、鳴ってる」

言われてみるとかすかに、着信の音が聞こえてきた。

昨夜自分のスマホをどこに置いたか、思い出せない。
のぞみがカバンの中を探ろうと手を伸ばすと、「ここ」と琢磨がソファの隙間に挟まっていたスマホを取り出した。

そうか、電話してるときに、琢磨が帰ってきたんだった。

琢磨が手の中のスマホを見ている。

着信は大崎。

そういえば後で電話すると言って、ほったらかしにしていた。

琢磨がスマホを手に、のぞみをみる。
昨晩、欲望をむき出しにしたその瞳に、今は何かが淀んでいる。

不安と怒りと憎しみと動揺。

「でるのか?」
琢磨が言った。

「でるよ」
のぞみの声に、圧力への抵抗が現れる。

「昨日、掛け直すって言ったのに、電話してないから」

のぞみはスマホを取り返そうしたが、琢磨はスマホを離さない。

やがて着信の音が止んだ。

「掛け直させないつもり?」
「いや、俺にそんなこと言う権利はないから」

琢磨はのぞみにスマホを手渡した。

それから心に積もる淀みを吐き出すように、深く深く息を吐いた。

「俺たち、変わらずにいられるよな」
そう言った。

のぞみの胸に、虚しさがこみあげる。

琢磨はきっと、そう言うだろうと思っていた。

「変わらずにいてあげたいとは思うよ」
そう答えた。
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