友情結婚~恋愛0日夫婦の始め方~

「俺さ、そろそろ結婚したいんだよね」
唐突に、大崎がそう言った。

「三十だしな」
琢磨は一口ビールを飲んで、乾いてきた唇を湿らせる。

「芹沢、どうかな」
そう言った。

「……芹沢と結婚したいってこと?」
いたって冷静に、動揺をみせぬように、琢磨は訊ね返した。

「そう。久しぶりに見たらさ、いろいろ思い出して。あのころ、すっげー楽しかった。俺のベストシーズンだったと思うんだよ」

大崎は、そう笑う。

「正直、ずっとしんどい人生だった。自分がダメなやつだって、毎日考えて。いろんな人に迷惑かけたし、そのころ付き合ってた女にも振られたし。でも、のぞみだったら、それ受け入れてくれる気がすんだよね」

大崎は肘をつき、ジョッキを片手に琢磨を見た。

「……それ、恋愛感情?」
琢磨は尋ねた。

震える心臓を抱えながら、慎重に尋ねた。

「どうかな。でもそうなる可能性は高い」

琢磨はごくんとつばを飲み込んだ。

「取られたくないんだろ」

大崎が琢磨の目をまっすぐ見つめる。

「あいつを独占したいんだ。友情のまま、繋ぎ止めたいと思ってる」

琢磨は固まった。

目の前の、確信に満ちた言葉で自分を責める、友人を見る。

「わかるよ。友情ならいろいろ理由つけて、諦められるからさ」
大崎が笑った。
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