友情結婚~恋愛0日夫婦の始め方~
「お前ら、当時から二人の関係に慎重だった。俺みたいにヤりたいから手を出す、みたいなこと絶対にしなかった。お互い気になってんのに、それぞれに相手見つけて、友達のポジションを守ってた」
「……何いってんだ。あいつはずっと友達だよ」
「まあ昔は、それでもよかったんじゃね? お互いそれに気がついてなかったんだろうな。でも幾つかの恋愛を経験して再び会ったらさ、あれが限りなく恋に近い感情だったって、わかるだろ」
琢磨の背中に冷たい汗が流れる。
「俺が芹沢を抱いたのは、芹沢なら抱けるって思ったから。あの時あのタイミングで、芹沢は誰かに必要とされたがっていた。女性としてみてもらいたがってた。だから抱けるな、って」
大崎がにやりと笑う。
「……お前、くずだな」
琢磨の口から、汚い思いの一部がこぼれ出た。
「おまえもだろ?」
大崎の顔が真剣になった。
「誰に必要とされたがってたか、わかんだろ、それくらい。でもお前は10年以上たっても、あいつを友達だって決めつける。友達だから、俺を無条件で受け入れてくれって」
ははっと乾いた笑いが、大崎から漏れ出た。
「もう、寝た? あいつが断れないようにして、あいつを強引に押し倒した?」
「やめろ……」
琢磨は肘をついて、自分の前髪を掴んだ。
「俺、芹沢を手に入れるよ。お前がなんも言わないなら、構わないよな」
琢磨は我慢しきれず、立ち上がった。
「芹沢、もうすぐくるぞ」
大崎がこちらを見上げる。
「帰る」
コートを取って、背を向け、靴を履く。
通路に出た瞬間、人とぶつかった。
「あれ、帰るの?」
のぞみがいた。
血の気が引く。
混乱して、何をしゃべってしまうかわからない。
琢磨はのぞみを無視して、その場から逃げた。
「ちょっ、何あれ?」
のぞみは席に座る大崎に、困惑して尋ねた。
「別に」
大崎が笑う。
のぞみは琢磨が出て行った方を振り返った。
どうしたんだろう。
何、言われたんだろう。
「わたしちょと見てくるね」
のぞみはそう言いおくと、琢磨の後を追って走り出した。
大崎は一人、ビールを飲む。
「頑張れ、親友」
そう言って、微笑んだ。