友情結婚~恋愛0日夫婦の始め方~
「あー、帰って来た」
のぞみがパタパタと玄関まで走ってきた。
よれよれのスウェットと無造作に上げた髪。
いつもの格好だ。
「もらってきた?」
「うん」
「そっか」
のぞみは、まるで何かのおまけをもらったかのような気軽さで、そう言った。
「明日、出す? 善は急げで」
「わかった」
琢磨が頷くと、のぞみも胸のつかえが下りたようなすっきりした顔をした。
「今夜、どうしよっか」
のぞみが言う。
「ごはん、いいの食べようよ」
「……じゃあ、鍋」
琢磨が言った。
「俺がだしからつくるって、言ってただろ」
そう言うと、のぞみが一瞬泣きそうな顔をして、それから「そうだったね」と笑う。
「じゃあ、鍋の素とどっちがおいしいか、判定するか」
のぞみはそう言いながら、リビングへ戻る。
うーんと伸びをして、首を回した。
その首すじに、強く俺の跡を残したい。
これが最後だから、残したい。
そんなことを考えて、琢磨は急いでその愚かな考えを打ち消した。