友情結婚~恋愛0日夫婦の始め方~
琢磨はあと少し残っているさきいかの袋を持ち上げて「食べる?」と尋ねる。
「もち。もったいないじゃん」
のぞみは細いさきいかの残骸を拾って、全部平らげた。
「あ、それから」
琢磨はゴミ箱に袋を捨てながら言った。
「俺のこと、名前で呼べよ。桐岡って、お前も今は桐岡だからな」
「そっかあ」
のぞみは軽くニヤリとする。
「じゃあ、琢磨って呼ぶ」
「琢磨さんって、新婚風に呼べよな」
琢磨がいうと、のぞみが「うわっ、寒ぅ」とキッチンから逃げ出す。
「俺は『のぞみ』でいい?」
「お好きにどうぞ」
のぞみは答えた。
高校の時から苗字で呼んでいたので、名前で呼ぶのは多少抵抗がある。
でもこいつに対してなら、特に何の感情もなく名前を呼べるだろうな。
「あー、ねむっ」
のぞみは大あくび。
「風呂、沸いてるぞ」
「至れり尽くせり」
「気がついたやつがやればいいから」
琢磨はそう言ってから、結局は俺がやることになるんだろうな、と思った。