友情結婚~恋愛0日夫婦の始め方~
第3節
のぞみと生活を始めて五日目。
「どう? 新婚さん」
隣の同期が話しかけてきた。
「まあまあ」
琢磨はパソコンの見積書から目を離さず、そう答えた。
「なんだよ、まあまあって。新婚っつったら、ラブラブだろ」
同期の吉崎は、椅子の背もたれをギイギイと背中で押しながら言った。
「俺ら、そういうんじゃないんだよな」
琢磨はちらっと吉崎を見る。
「付き合い古いの?」
「そうとも言う」
「じゃあ、もう慣れちゃって、ラブラブって感じでもないな」
「まあね」
琢磨の会社は、臨海地区の高層ビル群の中にある。高層階にあるオフィスからは、東京とは思えないほど空が広く見えた。
「三時に客来るぞ。急げ」
後ろを通るタイミングで、声をかけていく直属の上司。
ひっきりなしに受信するメールに、鳴り止まぬ内線電話。
『もっとおおらかで、よく笑う感じじゃなかった?』
言われてみれば、そうかもしれない。
でももう、時間を持て余すティーンネージャーではなくなった。
東京に出て大学に入り、授業の合間にバイトを入れ、レポートを書き、サークル活動をして、女の子とデートする。
時間が圧倒的に足りない。いつのまにか「おおらか」とは程遠い性格になったが、求められるものを、ちゃんと返せる大人になった。
多少、毎日が窮屈だと思ったとしても。