友情結婚~恋愛0日夫婦の始め方~
のぞみがシャワーから上がると、部屋は元どおりになっていた。
「ありがとね」
頭をガシガシタオルで拭きながら言った。
「のぞみはもう、何もすんな」
琢磨はビールで濡れたシャツを頭から脱ぎながら言った。
「えー!?」
「飲んどけ」
ほいっとビール缶を渡されて、ソファに座らされる。
ふと琢磨を見上げると、訝しげな顔をしているのに気付いた。
「なに?」
困惑してのぞみは尋ねた。
「まさか、ノーブラ?」
そう言われたので、のぞみは「もち」と頷いた。
「……つけろよ、下着」
「家なのに? あれって、窮屈なんだよね」
盛大なため息。
「まあいっか。お前じゃたたねーし」
「おいっ」
大きく笑って、琢磨が洗面所へと消えていった。
「なにもするなって言われてもな」
のぞみはビールを一口飲んで、壁掛けの時計を見上げる。
目黒の家具屋とかで見かける、おしゃれな時計だ。
のぞみの部屋にあった百均で買った時計とはわけが違う。
「五時すぎ。つまみもないし、テーブルにご飯用意しとくか」
いそいそとキッチンへ向かう。
けれど、圧力鍋を使ったことのないのぞみは、開け方さえわからない。
早々に諦めて、周りを見回す。ぱかっと炊飯器をあけた。
空っぽだ。
「シチューなのに、ご飯がない……炊いとくかなあ」
のぞみはこれならできると、意気揚々とお米を研いで、炊飯器のスイッチを入れた。
洗面所の方で音がする。そろそろ琢磨が出てきそうだ。
「ん? これは?」
今まで見えてなかったが、キッチンの作業台の上に、バケットの包みがある。
「パンか!」
「何もするなって、言っただろー」
白いTシャツに濡れた髪。首からバスタオルをかけて、湯気いっぱいの琢磨が、いつのまにか背後に立っていた。
「ごめん、ご飯炊いちゃった。シチューだからと思って」
「シチューだと、ご飯なの?」
髪を拭きながら尋ねてくる。
「そう。ご飯にかけるでしょ?」
「……かけないかな」
「えー! かけるよ! 当然だよ!」