友情結婚~恋愛0日夫婦の始め方~
涼介と別れたのはもう3年前。
付き合っていたというのかどうか、定かではないけれど。
どちらかというと寄生されていた。
いや、のぞみが涼介に寄生していたというのが正解もしれない。
彼の世界に取り込まれて、彼の世界しか見えなかった。
言われるがままに彼の借金を返済し続け、殴られるままに殴られた。
その期間、のぞみは生きながら死んでいたも同然だった。
そして、涼介がのぞみに飽き解放された時にはもう、のぞみの細胞には完全に「涼介」という恐怖が刷り込まれていたのだ。
でも会わなければ大丈夫。
そう考えてこの3年間を過ごしてきたけれど。
のぞみの職場はずっと変わらない。
だから涼介の気が向けば、すぐにでものぞみはまたあの世界に取り込まれてしまうのだ。
「のぞみちゃん、電話なってるよ?」
奥さんの言葉で、はっと我に返った。
午後6時。終業時間。
スマホを見ると見知らぬ番号。涼介の番号だ。
「とらないの?」
奥さんが首をかしげる。
「……あとで」
のぞみはやっとそういうと、スマホをカバンにしまった。
まだ逃げられるかもしれないという、淡い期待をこめて。
「はあ、あのお客さんさあ」
奥さんは肘をつく。
「すごく乗り気だから契約してくれるんだと思ったら、冷やかしなんだもの」
頬を膨らませる。
「お前、そりゃ見抜けなきゃいかんよ」
タバコをふかしながら、さっき戻ってきたばかりの社長が言う。
「いい人そうだったのよ。ねえ、のぞみちゃん」
「……そうですね」