友情結婚~恋愛0日夫婦の始め方~

涼介と別れたのはもう3年前。

付き合っていたというのかどうか、定かではないけれど。

どちらかというと寄生されていた。
いや、のぞみが涼介に寄生していたというのが正解もしれない。

彼の世界に取り込まれて、彼の世界しか見えなかった。

言われるがままに彼の借金を返済し続け、殴られるままに殴られた。
その期間、のぞみは生きながら死んでいたも同然だった。
そして、涼介がのぞみに飽き解放された時にはもう、のぞみの細胞には完全に「涼介」という恐怖が刷り込まれていたのだ。

でも会わなければ大丈夫。

そう考えてこの3年間を過ごしてきたけれど。

のぞみの職場はずっと変わらない。
だから涼介の気が向けば、すぐにでものぞみはまたあの世界に取り込まれてしまうのだ。

「のぞみちゃん、電話なってるよ?」

奥さんの言葉で、はっと我に返った。
午後6時。終業時間。

スマホを見ると見知らぬ番号。涼介の番号だ。

「とらないの?」
奥さんが首をかしげる。

「……あとで」
のぞみはやっとそういうと、スマホをカバンにしまった。
まだ逃げられるかもしれないという、淡い期待をこめて。

「はあ、あのお客さんさあ」
奥さんは肘をつく。

「すごく乗り気だから契約してくれるんだと思ったら、冷やかしなんだもの」
頬を膨らませる。

「お前、そりゃ見抜けなきゃいかんよ」
タバコをふかしながら、さっき戻ってきたばかりの社長が言う。

「いい人そうだったのよ。ねえ、のぞみちゃん」
「……そうですね」
< 30 / 120 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop