友情結婚~恋愛0日夫婦の始め方~
のぞみは帰りの身支度を始めた。
涼介から逃げるように。
でも、どうやって?
番号は知られてる。
「おつかれさま、また明日ね」
奥さんが手を振る。
社長も「ああ」と言って軽く頷いた。
のぞみはペコッと頭をさげると、足早に事務所を出た。
カバンのストラップを握りしめ、まるで競歩選手のように、なるべく早く。
カバンから電話が鳴る振動がわかる。
のぞみは唇を噛み、気づかぬふりをしようとした。でも涼介の世界がのぞみを飲み込み、振りほどこうにもどうしても脳の拘束を外せない。
のぞみは立ち止まり、カバンからスマホを取り出す。通話ボタンを押すかどうか、親指が迷ってる。
「早くとれよ」
突然、前から声が聞こえた。
はっと顔を上げると、スマホを耳に当てている涼介が、のぞみのほんの一歩前に立っていた。涼介の香水が、いつも好んでつけていた香水の香りが、のぞみを刺激して思わずえづきそうになる。
「遅いから、迎えに来た」
涼介は優しく笑うと、「行こうか」と声をかけた。
捕まった。
のぞみは抵抗する気力もなく、涼介と一緒に歩き出した。