友情結婚~恋愛0日夫婦の始め方~

第2節


のぞみの様子が明らかにおかしい。

いつもみたいによく笑っているけれど、どこか上の空だ。
冷凍ハンバーグも結局まったく食べていない。
そもそも最近、何か食べてるんだろうか。
どんどん痩せているような気がする。

パソコンの画面を見つめながら、琢磨はぼんやりと考えた。

「おい」
横から吉崎が声をかけてきた。

「なに?」
「どした? らしくないなあ、ぼんやりして」
「別に」

琢磨は首を振った。

「……やっぱりアレか?」
吉崎が声をひそめて、尋ねてきた。

「なにが?」
「田辺部長の上海出向の件だよ」

琢磨はなにも言わず、パソコンの画面を見続ける。

「上海に海外出向なんて、あからさまな左遷じゃん。やっぱ噂は本当だったのかな」

吉崎は、琢磨が真尋が付き合っていたことを知っている。同期では吉崎ともう一人の同期が琢磨と真尋が付き合っていたことを知っていた。

でも、噂が真実だったことは、誰も知らない。

「どうかな」
琢磨はやっとそう答えた。

口を開くと、溜まった膿が溢れ出る気がして、なにも言えなくなってしまう。

「まあ、お前、別れて正解だよ。彼女美人だけど、いろいろと裏がありそうだったしな」

琢磨は静かに首を振って、吉崎の話を打ち切った。

別れて1年。
真尋は、噂が出るとすぐ会社を退職した。

今はどこにいるんだろうか。

外を見ると、東京の夕焼け。
赤いインクが雲に滲んで、徐々に闇へと沈んでいく。

「俺、ちょっと出てくる」
琢磨は立ち上がった。

「どこへ? 8時から打ち合わせだぞ」
吉崎が驚いて、椅子の背もたれをキィと鳴らす。

「それまでに戻るよ」
琢磨は大股で、オフィスを抜け出した。
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