友情結婚~恋愛0日夫婦の始め方~
「手を離せ」
鋭く、強い一言が聞こえた。
顔をあげると、琢磨の端正な顔は冷たく固まっている。
それでも中は煮えくり返っているのがわかった。
「なんだお前?」
突然の横槍に、涼介の声が苛立つ。
「彼女の夫です」
そのとたん、腕を掴んでいた涼介の手が緩んだ。
「妻に暴力はやめてください」
「はあ? 暴力なんて濡れ衣だよ」
「彼女に借金を強要してるんですか?」
涼介がドンとのぞみを押す。
のぞみがよろけると、琢磨がその腕をとって支えた。
「んだ、お前。旦那に全部しゃべったのか? せこい女だよ」
涼介が悪態をつく。
「まったく、使えねー」
涼介は吐き捨てるように言うと、その場から逃げようとした。
その瞬間、琢磨の腕が伸びて、涼介の首元を勢い良く掴んだ。
涼介の喉から呻きが漏れる。
「二度と妻に近づくな。スマホの番号も今すぐ消せ」
大きいと思っていた涼介は、不思議なことに琢磨と比べるとひ弱にみえた。
涼介は悔しそうに唇をゆがめながらも、ポケットからスマホを出して操作した。
「ほら、消した」
スマホを見せる。
「これでいいだろ?」
琢磨は涼介を突き放した。
涼介が二三歩後ろへよろめく。
「金も返せ。それはのぞみが働いて稼いだ金だ」
涼介は琢磨を睨み上げると、ポケットからお金をコンクリートの地面に投げた。
そして無言でその場を後にした。