友情結婚~恋愛0日夫婦の始め方~
琢磨に怒鳴られて、のぞみの中の堤防にヒビが入る。
涙があふれた。
涼介に引きちぎられたと思っていた涙腺を通って、瞳から頬へ、次から次へと流れる。
「あいつといると、わたしが女でいられるの!」
怒鳴った。
「あいつは殴るし、横暴だし、でもわたしが女だってわかってやってる。あいつに支配されると、わたしが女だって初めて実感できるの!」
琢磨が黙った。
のぞみは顔を上げられない。
涙も拭えない。
ただコンクリートに次々と自分の涙がシミを作るのを、屈辱的な思いで眺めるだけ。
「のぞみ……」
琢磨がつぶいた。
肩が嗚咽で震える。
涙が止まらない。
「知られたくなかったのに。琢磨には絶対、自分の女の部分を知られたくなかったのに。」
琢磨がのぞみを抱き寄せた。
スーツの襟が、のぞみの涙で濡れる。
のぞみは目を閉じた。
しばらくそのまま、琢磨の暖かさを感じる。
冷え切った体に、琢磨の暖かさがしみてくる。
こんな風に抱きしめられたのは、初めてだ。
そうか、琢磨はこんな匂い。
「ボーリングでもいく?」
琢磨が言った。
「え?」
のぞみはその突拍子もない提案に驚いて、琢磨の腕の中で顔をあげた。
「昔、よく行ったじゃん? 気が滅入る時には、みんなでさ」
そういえば、そうだった。
失恋。
テストの赤点。
腹の立つ教師。
でもみんなで笑えば、それでスッキリした。
「……あの街、ボーリング場しか娯楽施設ないんだもん」
「カラオケもなかった。あるのはスナックのカラオケだけでさ」
琢磨が笑う。
「俺、120確実」
「またまた、嘘ばっかり」
「練習したんだ」
「一人で? 寂し」
「うるせ」
琢磨はのぞみを離した。
「行こう」
「うん」
のぞみは涙を手の平で拭い、琢磨と並んで歩き出した。