友情結婚~恋愛0日夫婦の始め方~
琢磨はやっとのぞみを見た。
「もやもやさせんな」
のぞみは琢磨を蹴るふりした。
琢磨は髪をかきあげて、自分のつま先を見下ろす。
それから「……わかった」と言って、玄関へと向かった。
琢磨が玄関で急いで靴を履くのを、のぞみは廊下の壁にもたれて眺めた。
「ちょっと行ってくる」
「うん、いってらっさい」
ドアを開けると、外気の冷たい空気が侵入してきが、シャツ一枚の琢磨は、気にならない様子だった。
振り向いて軽く微笑む。
「サンキュ」
「友達だし当たり前」
のぞみが言うと、琢磨がホッとした表情を浮かべる。
そして外に飛び出した。
ドアが静かに閉まると、その無音の空気に驚く。
のぞみはビールの缶を握りしめたまま、リビングに戻った。
そして一口ビールをふくむ。
「まずっ」
のぞみは顔をしかめて、そのままキッチンへと向かった。
シンクに腕をついて、高いところからビールを捨てる。
「まずくなっちゃった、ビール」
のぞみは小さくつぶやいた。
「あいつが面倒臭い男だから」
缶を握りつぶす。
「あいつがもやもやしてるから」
ゴミ箱に缶を投げ入れた。
「あいつがもやもやさせるから」
のぞみはそう言って、小さくため息をついた。