友情結婚~恋愛0日夫婦の始め方~
マンションのエントランから、駅の方向へ走る。
風がワイシャツの中を容赦なく通り抜け、体温を瞬く間に奪っていく。
『待ってたんでしょ?』
違う。
待ってない。
だってそうだろ?
あんなひどい裏切りをした女を、どうして待てるっていうんだ。
でも。
はあはあと荒く呼吸をすると、白い息が夜空に散る。
あの女がズタボロになって、泣いてすがってくることを、もう何度も思い描いた。
どんなに謝っても、手遅れなんだと思い知らせたいって。
結婚したって聞いたら、どんな顔をするだろう。
幸せだって言ったら、どんな風に顔を歪めるだろう。
あの女が手に入れそこねた幸せを、俺ならあげられたということを。
それに気付いた時の、その絶望の顔を心底みたい。
自分の中に溜まった膿を、あの女に全部ぶちまけて、汚れて泣き叫ぶあの女の姿をみながら、笑ってやりたいと。
それを『待っていた』というのか?
駅が近づき、高いビルが増えてくる。
その道の先に、力なくとぼとぼと歩く真尋が見えた。
全力疾走したせいで心臓は破裂しそうになっている。
ちがう。
念願の瞬間だから、破裂しそうなんだ。
「真尋!」
大声で叫んだ。
真尋が振り向く。
「やっぱり来てくれた」という表情。憎悪がこみ上げる。