友情結婚~恋愛0日夫婦の始め方~
真尋の前まで行くと、汗で濡れた髪を掻き上げた。
「いいの?」
真尋が見上げ、尋ねる。
「用があったから、わざわざ来たんだろ? 言えよ、聞くから」
真尋がうつむく。
「琢磨くんが結婚したって聞いて、それで本当かなって思って」
「結婚したよ。だから何? 真尋にはもう関係ないことだよな」
自分でいいながら、その女々しさにヘドが出そうだ。
関係なくはない。
今だってこんなに巻き込まれている。
感情の嵐に。
「そうだね、関係ないね」
真尋は小さく頷いた。
琢磨は涙を期待する。
泣いてすがれよと、心が叫んでる。
でも真尋の頬に、涙は流れない。
ただ平坦な空気が流れるだけ。
「部長、上海に行くらしいな」
これ以上会話を続けても、琢磨の虚しさは増すばかりなのに。
「そう、みたい」
真尋の語尾が揺れた気がした。
それに気付いたとたん、また猛烈な嵐が琢磨をめちゃくちゃにする。
「一緒に行くのか?」
「……わたし、部長と別れたの」
案の定だ。
ホッとしている自分がいる。
不倫が続くことなんか、あるわけない。
結局、真尋はわざわざ不幸になる道を選んだんだ。