友情結婚~恋愛0日夫婦の始め方~

真尋が顔を上げた。

琢磨はその顔に驚く。

笑っているのだ。

「わたしね、昔から男の人とどうしても友達になれなくて。わたし自身のせいだとわかってるんだけど、話した相手は必ずその先を期待する。わたしはその期待をはねつける力がない」

ちょっと考える。

「多分、すごく弱いの。嫌われたくないんだと思う」

琢磨は思わぬ言葉に力が抜ける。

「正直、不倫っていう泥沼から抜け出たくて、琢磨くんの優しさを利用した。この人ならきっとわたしを引っ張り上げてくれるって、そう思って。でもね」

真尋はふうと小さな息を吐く。

「あの人が好きだって気持ち、どうしても拭えなかった。琢磨くんに優しくされればされるほど、罪悪感が募って。ああやって終わりが来て、ホッとした。それに、一人になったら、自力で泥沼から抜け出ることに必死になれたの」

真尋は優しく笑う。
いつも琢磨に笑いかけてた、あの笑顔で。

「結婚したって聞いて、すごく嬉しくなった。だから『おめでとう、ありがとう』って言いたくなって。自己満足だってわかってたけど」

そこでちょっと言葉に詰まる。

「ああ、わたしのこういうところがきっと、いけないところなんだね」

真尋は髪をかきあげた。

「奥さん、いいひと。あの人を選んだのよくわかる。だってわたしが元カノだって知ってて、わざわざ部屋に入れたのよ。今だって『追いかけろ』って言ったの、あの人でしょ?」

琢磨は何も言えない。
真尋は続けた。

「身勝手だけれど、琢磨くんのことは本当に好きだったよ。一緒にいると楽しくて、すごく穏やかな気持ちになれた。きっと」

一呼吸おく。

「きっと、出会ったあの時、友達になれたらよかったんだと思う」

真尋は頭を下げた。

「本当にごめんなさい」

顔を上げて笑う。

「おめでとう。お幸せに」
そう言った。
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