友情結婚~恋愛0日夫婦の始め方~

「俺さ」

ペットボトルをテーブルにおく。

それから両手を組み合わせて、膝の上に乗せた。
その上に、ぽたぽたと濡れた髪から雫が落ちる。

「お前のいう通り、あの女のこと待ってたみたいだ」

のぞみの胸が、とくんとひとつ鳴った。

「泣いて謝ってくるの、待ってた。それをひどい言葉で罵って、あの女をぐちゃぐちゃにしてやりたいって、そう思ってた。それなのに」

琢磨は身を折り曲げて、額を握りしめた両手のにつける。

「真尋、笑ったんだ。一人で全部終わらせて、全部解決して、全部昇華してたんだ。俺だけがずっと待ってた」

拳が震えている。

「もうこんな……醜い思いにかられるのは、うんざりだ。人を本気で殺したいって思ったのも、心から不幸を願うのも、もうほんとに……」

思わずのぞみは琢磨の背中をさすった。
濡れたままかぶったシャツが湿っている。

「それだけ、人を愛したってことじゃない? みんなそうだよ。琢磨だけが汚れたわけじゃない」
「愛することがこんなに自分を醜く歪めるものなら、もう二度となくていい」

大丈夫。
また人を愛せるようになるよ。

そう言いたいのに、のぞみの口からその言葉は出て来ない。

「ほら、まだびしょびしょじゃん。拭きなよ」

のぞみは明るい声で、肩にかかったタオルを引っ張る。
それから膝立ちして、琢磨の髪を拭いた。

それでも琢磨は動かない。

のぞみはタオルをかぶせたまま、その広い背中に手を回した。

「……もう汚れなくていい。わたしと結婚したじゃん。一生、一緒にいる約束を」
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