友情結婚~恋愛0日夫婦の始め方~
琢磨がゆっくり顔を上げた。
体をねじってのぞみを見る。
まつげが触れるほどに近く、琢磨の呼吸がそばにあった。
どちらから、というのはない。
ただ自然に、唇が触れた。
お風呂上がりの暖かな唇。
これをキスというのか、わからない。
気のせいかとも思えるほどの、かすかな接触。
触れて、離れて。
瞳を見る。
この一瞬に何を考えていたかなんて、後になってもきっと思い出せない。
琢磨の腕が伸び、のぞみの首の後ろを引き寄せた。
今度は明らかに、意思を持って、唇を寄せる。
二度、三度、向きを変えて、唇を開き、徐々に深く。
のぞみの体がソファに押し付けられ、琢磨の濡れた髪が頬に当たる。
のぞみは思わず琢磨の腕を掴んだ。
ふっと、動きが止まる。
琢磨が目を開き、のぞみを見ると、唇が離れた。
「……悪い」
琢磨は急いで立ち上がった。
のぞみはただ琢磨の動揺した顔を見上げた。
「もう、寝るわ、俺」
そう言い残し、琢磨は寝室へと足早に入っていった。
扉が閉まると、しんと静かになる。
テーブルには、冷めたコーンスープ。
のぞみはソファから身を起こして、濡れた唇を触った。
そして目を閉じる。
これは気の迷いだと。
この感情は気のせいだと。
明日になればまた、何もなかったように、元の毎日が返ってくると。
そう信じ込ませた。