友情結婚~恋愛0日夫婦の始め方~

のぞみはスマホを片手に、ガラス戸を開けて道路に出た。
スマホを耳にあげる。

「もしもし?」
久しぶりの母の声。いつもなんだか怒ってるみたいに聞こえる。

「何?」
そう感じると、のぞみもついぶっきらぼうに答えてしまう。

「元気なの?」
「まあね」
「琢磨さんは?」
「うん」
「年末、連れて帰ってくるでしょ?」
「……どうかな」
「またそんなこと言って。結婚相手に会わせないってどういうことよ。本当に結婚してんの? 妄想じゃない?」

のぞみのガサツさは、おそらく母からもらった。
配慮や優しさにかける言葉の選び方。

「戸籍謄本とれば?」

そういうと、はあと疲れたため息が聞こえた。

「そうそう、年末の話じゃなくてね」

気を取り直して、母が続ける。

「望月さんって、高校のときの友達かしら? 結婚式の招待状きてるのよ」
「連絡しようと思ってたんだ。悪いけど、それこっちに送ってくれる?」
「ねえあんた、芹沢できてるわよ? 結婚のこと知らせてないの?」
「……めんどくさくて」
「だから、結婚式しときなさいって言ったのよ! まったく我が子ながら、本当に頭きちゃう」
「はいはい」
「ちょっとっ」

母の怒りのボルテージが上がってきた。
のぞみはスマホを少し耳から遠ざける。

「今仕事中だから。それ、よろしくね」

のぞみはいつも通りそう締めくくると、一方的に電話を切った。

ガミガミ言われる声がなくなると、のぞみは「まったくなあ」と声に出した。

本当は優しくしてあげたい。
でもいつものぞみの痛いところを的確についてくるので、つい口喧嘩のようになってしまうのだ。

「結婚式なんて、するわけないじゃん」
そう呟くと、のぞみは仕事へと戻った。
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