友情結婚~恋愛0日夫婦の始め方~
「のぞみといると、楽でいいな」
「そう?」
琢磨は箸を置いて、お茶を手にする。
「女の子とデートするってなったら、多少頑張ったりするもんだろ? いいレストラン調べたり、わけわかんない長ったらしいメニューを食べて、うまくもないのに『うまい』とか言うんだ」
一口、お茶を飲んで、それからまた食べ始めた。
「大変だねえ、男は」
「女もそうだと思うけど」
「やだな、それ。しんどいじゃん、そんなの」
のぞみはカツをほおばりながら、先日訪ねてきた元カノが、上品にフォークを使うところを想像した。
彼女には、頑張って自分を良く見せたいのかな。
「違いはなに?」
つい、言ってしまった。
彼女と、のぞみの違うところ。
「……違い?」
訝しげな顔をされて、のぞみは慌ててカツを飲み込んだ。
「ほら、恋愛と友情とさ。どっちも、愛にはかわりないでしょ」
自分で言いながら、喉を両手でぐっと締め上げられてる気がして、つまる。
お茶を飲み、琢磨から目をそらした。
今まで二人の間にあった楽しげな空気に、微妙な緊張が一瞬で戻った。
「どちらも」
琢磨は箸をもったまま肘をついて、なんでもないという口調で話しだした。
「相手を想うことに変わりないけれど、恋愛になると私欲が出るよな」
「……なるほど」
「だからしんどくなるんじゃないかな」
「そうか……」
琢磨が小さく息を吸った。
まるで勇気を出すみたいに。
「その点、俺たちはうまくいってるよな」
「そうだね」
のぞみはそう笑って見せた。