友情結婚~恋愛0日夫婦の始め方~
琢磨は仕方がないなあと笑うと、ワンピースを持って琢磨の寝室へ向かった。
電気をつけると、整頓された室内が見える。
セミダブルのベッドは薄いブルーのベッドカバーがかかり、ラグとカーテンはグリーン。
ベッドの脇に姿見が立てかけてあった。
「ほら、着て」
のぞみにワンピースを押し付けると、琢磨はドアをバタンと閉める。
のぞみはカーディガンと新品のワンピースを手に、初めて入る寝室に立ち尽くした。
外からちらっと、部屋の中が見えたことはある。
でも、入ったのは初めて。
以前、泣いているのぞみを抱きしめた時の、あの琢磨の香りがした。
のぞみはスウェットを脱いで、ワンピースを上からかぶった。
姿見に自分の姿を写すと、生地が薄いので下着をつけていないことがよく分かる。
のぞみは慌ててカーディガンを羽織って、前を閉めた。
「着た?」
ドアの向こうから声がする。
「うん」
返事をすると、琢磨がドアを開けて入ってきた。
姿見をみているのぞみの後ろを通り、ベッドに腰掛けた。
鏡ごしに、琢磨が見える。
「いいじゃん。サーモンよりずっといい」
「そう?」
「うん」
「ありがと」
ふと、考えた。
こうやって、あの彼女のワンピースも、選んだのだろうか。
彼女に似合う、華やかで女性的なデザインのもの。
のぞみの笑顔が固まる。
鏡に映る部屋。
カーテン。
ラグ。
ベッド。
すべて琢磨と彼女が、新しい生活のために選んだ。
今目の前にある、この姿見もだ。
そして、メイクを落とし、頭を無造作にまとめただけの自分の姿が目に入った。
ちりっと、何かが胸の中で焼ける。