友情結婚~恋愛0日夫婦の始め方~
のぞみの「うん」という声が聞こえたので、琢磨は寝室の扉を開いた。
姿見の前で、ワンピースを着たのぞみが立っていた。
琢磨の胸が静かに鳴る。
のぞみは試着室でも同じワンピースを着ていたけれど、何かが違う。
今まで気にもしなかったことが、どうしてか目に入ってきた。
髪を上げた時の後毛や、その細い首筋。
下着の線が出ない背中のラインや、女性的な腰の丸み。
琢磨は動揺を隠しながら、ベッドに座った。
姿見の前に立つのぞみを背後から見ながら、琢磨は視線を外せない。
考えていることがわかられたら、どうしよう。
表面的な笑顔を作り、これまでと変わらない自分を装った。
あのキスから、何かが変わった。
二人ともそれに気がついているけれど、その感情がとても危険だということも気づいている。
見ていると、鏡の中ののぞみが視線を彷徨わせた。
そして、顔から感情が抜け落ちる。
琢磨が装うものとそっくりの、絵に描いたような笑顔を顔に貼り付けて。
「どうした?」
琢磨は声をかけた。
その語尾が揺れた気がする。
鏡ごしに目があった。
その瞳の深い部分に、琢磨が映っている。
「衝動」
それは琢磨の胃の奥底から湧き上がり、体の隅々まであっという間に染み渡る。
身体中が疼く。
触れたいという欲望が、無意識に琢磨を動かした。
ベッドから立ち上がる。
けれど、のぞみはさっと身を翻し、鏡の枠から現実へと飛び出した。
—我に返った。