友情結婚~恋愛0日夫婦の始め方~

第3節


出発する新幹線に揺られながら、のぞみは目を閉じた。

「コートは?」
琢磨が荷物を上に乗せながら尋ねた。

「寒いから、着て寝る」
「そうか」

琢磨はそういうと自分のコートとマフラーを脱いで、丸くまとめて荷物と一緒に入れた。
そして琢磨は横で、長い足を組んで本を読み始める。

のぞみは体を丸めるようにして、窓に額をつけて眠ろうとした。

あれから、満足に眠れない。
でも表面的には、いつも通りを心がけている。

元どおり、心から笑いあえる。
熱が下がれば、きっと。
そう信じて。


広島市内のシティホテルにチェックインする。
今日は一泊して、明日の朝から市内のホテルで結婚式だ。

「桐岡と芹沢です」

フロントでそう名前を告げる琢磨の顔は、いつも通り。

「それぞれシングルで、ご予約ですね」
「はい」

キーをもらって、エレベーターに向かった。

「結構いいホテルじゃん」

のぞみがいうと、琢磨がキーをみて「隣だ」と言った。

5階でエレベーターを降りて、薄暗い廊下を歩く。
高級ホテルではないが、清潔で心地よい。

「はい、こっちのぞみの」
琢磨が鍵を渡す。

「さんきゅ」

カードキーをかざしてドアを開ける。
中に入るとき、右隣の部屋に入ろうとしている琢磨をちらっと見た。

予期せず、目が合う。

「あ……また、ね」
どこかぎこちない言葉をかけて、のぞみは顔を背け部屋に入った。
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