友情結婚~恋愛0日夫婦の始め方~
パタンとドアが閉まると、肩から力が抜ける。
ごく普通のシングルルーム。
真ん中にベッド。
向かい側に鏡台がある。
のぞみはボストンバッグを床に放り投げると、靴を脱ぎ捨ててベッドの上に勢い良く倒れこんだ。
「つかれた……」
目を閉じる。
いつも通りを心がけることが、のぞみの負担になっていた。
明らかにいつも通りではないのに、熱を隠して笑う。
それは、楽しく過ごした時間を取り戻したかったから。
琢磨の本物の笑顔が見たかったから。
しばらく低く唸るような空調に耳を傾ける。
それからガバッとベッドに起き上がった。
「よしっ」
のぞみは気合をいれると、ショルダーバッグを手に取った。
テンションを上げるように、大きく腕をふり上げて、琢磨の部屋をノックする。
「琢磨ーっ」
のぞみは大声で呼んだ。
すぐにガチャガチャッと鍵を外す音がして、ドアが開いた。
「声、でけー」
琢磨はジャケットを脱いで、シャツ一枚になっている。
半笑いで、呆れたような顔だ。
「観光、いこ」
のぞみは言った。
「……いいけど。テンション高いな」
琢磨の口から笑みがこぼれる。
「どこ? 原爆ドーム?」
「ううん。お好み焼き」
のぞみはバッグからガイドブックを出して、開いてみせる。
「食べ歩きしよ」
「それ、観光っていうか、グルメ」
琢磨は笑った。
それから「いいよ」と頷いた。