友情結婚~恋愛0日夫婦の始め方~
『誰もが胸を張って生きてるとは限らないし。そんなとき、十代のときの友達になんて、会いたくないよ』
のぞみの言葉に、琢磨は胸を突き刺されたような痛みを感じた。
卒業後の自分を省みる。
大学に通い一流企業に就職し、真尋の件を抜けばある意味思い描いた通りの人生を送っている。
そこには自分の努力もあったと自信を持って言えるけれど、
でもあの日、のぞみが『桐岡が望むなら、それが一番』と言わなかったら、この人生はなかった。
あのクズ男がのぞみからお金を絞り取っていたのが、どれほどかはわからないけれど、それはのぞみにとっては触れられたくない時間なのだろう。
依存されることが、暴力を振るわれることが。
自分の女性というアイデンティを確立できる、唯一の手段。
そんな時間。
あの時、あの教室で、桐岡の背中を笑顔で押したのぞみがそんな人生を送っているなどとは、琢磨はずっと想像だにしなかった。
あの笑顔のまま、のぞみは幸せに生きているのだと。
そう信じきっていた。
食べ歩きが一通り終わると、二人は夜更かしせずにホテルの部屋に戻った。
「また明日ね」
のぞみは手を振り、部屋に消える。
彼女の姿が見えなくなると、琢磨は自分の部屋に入った。
自動的につく室内灯。
窓に映る自分の姿。
その向こうには東京よりはるかに光が少ない、広島の夜景。
夜、完全に一人で過ごすのは、結婚してから初めてだ。
のぞみがいたら、すぐにベッドの真ん中を占領する。
脱いだ服は散らかしっぱなしだし、見たくもないお笑い番組をつけっぱなしにするだろう。
でも今この部屋は、静かそのもので。
琢磨はのぞみの部屋がある方向の壁を眺める。
のぞみは今部屋で一人、どうしているだろう。
俺のことを、考えたりしているだろうか。