友情結婚~恋愛0日夫婦の始め方~
ホテル内のチャペルは、天井が高く明るい。
のぞみと琢磨は友人席に座る。
周りを見回しても、高校時代の友人はのぞみと琢磨だけ。
他の参列者は、親戚や今の職場の人が大半のようだ。
琢磨はスーツ姿。
会社に出て行く時とそう変わらないのに、なぜかのぞみは目が離せない。
別の大人の男に見える。
琢磨に大学受験を勧めた時、毎日の風景から琢磨が消えるということに気がついた。
でも、その寂しさよりもずっとずっと、琢磨の決断の方が大切だった。
だからなんの打算もなく、心から言えたのだ。
でも今は?
わたしは『桐岡が望むなら、それが一番』って、ためらいなく言えるだろうか。
「おっ、久しぶり」
頭上から声が降ってきて、のぞみは見上げた。
「大崎!」
琢磨が驚いた声を上げた。
「よお」
大崎は髪を短くさっぱりと切り、スポーツマンらしく体が引き締まっている。
のぞみの隣に座ると、ニカッと歯を見せて笑った。
「来たのか?」
琢磨の声が弾んでいる。
「もっちゃんが結婚するっていうんだ。来ないわけにいかないよ」
スーツを着慣れていないのか、窮屈そうに何度も座り直した。
「お前、メールの返事してこないから」
ちょっと非難するように琢磨がいうと、「ごめん、忙しくて」と笑う。
「二人はちょこちょこ連絡とってんの?」
大崎が尋ねる。
「たまにね」
なんの淀みも躊躇もなく、琢磨がそう返事をした。
「本当は入籍してるんだ」
そう言えないのは、のぞみも同じだ。
それでも喉の奥につかえるような違和感が残る。
のぞみは黙って前を向いた。