友情結婚~恋愛0日夫婦の始め方~
第2節
鍵を開ける時、少し感傷的になった。
本当は婚約者の真尋(まひろ)と、この部屋に住むつもりだったから。
ショールームを見た真尋は、こみ上げる喜びを一生懸命抑えるみたいに深呼吸して、「ここに住みたい」って言った。だから、品川みたいな都心に、2LDKマンションを買ったのに。
「ねー、すっごいところだね」
のぞみが歓声をあげた。
まっさらの壁紙、まっさらのフローリング。
何もかも新しいこの部屋に、これから愛する人とではなく、気兼ねしない友達と住む。
不思議な感じだ。
「ロフトだっ」
のぞみはボストンバッグをポンと放り投げると、梯子をひょいひょいひょいと昇る。
「わたし、ココ、とった!」
デニムにTシャツ姿ののぞみが、あぐらをかいて眼を細める。
肩より少し長い髪は、洗って乾かしただけというような、ラフな感じ。
「だって、窓の外の景色よく見えるもん」
「寝ぼけて、落ちんじゃないの?」
「大丈夫だって」
のぞみはまた、身軽におりてくる。
「家具、買い足す?」
琢磨は尋ねた。
「いいって、ここにあるもので」
のぞみは何も気にしない。この家具は全部、真尋の趣味で統一されているのに。
「ま、いっか」
琢磨も気にしないことにした。
入籍はすんなり。
特に感慨もなく、区役所に提出した。
琢磨はずっとこの部屋を敬遠していたのだが、やはり二人で住むのなら広い方がいいと、思い切って引っ越してきた。
ここで二人で気楽にすごせば、辛い記憶もだんだん埋もれていくだろう。
そんな期待もして。