友情結婚~恋愛0日夫婦の始め方~
琢磨は、前へ歩いていくのぞみの背中を見て、その華奢なラインに落ち着かない。
横を見ると、大崎ものぞみの背中を目で追っていた。
あんまり見るな。
そう考えて、琢磨は驚く。
視線に気づいて、大崎がこちらを向いた。
スポーツ万能で精悍な顔立ち。
当たり前だけど少し年をとった。
「琢磨は?」
突然尋ねられて、琢磨はびっくりした。
「なにが?」
「結婚だよ」
「いや、ないよ」
口から当然のことのように、嘘が出る。
「お前は?」
「俺もないよ」
大崎はそう言って、少し躊躇した。それから口を開く。
「俺さあ、会社倒産して、しばらく無職だったんだ」
「そうなのか?」
琢磨は驚いて、背もたれから体を起こした。
「でもやっと職を得て、なんとか生活が落ち着いてきたとこ。今は埼玉の田舎に住んでる」
「そっか。大変だったんだな」
琢磨はコップのビールを手にとって、飲む。
しばらくぶりに会う友達の近況。
初めて聞く話に、あれだけ毎日を一緒に過ごした存在が、自分の日常からごっそりと抜けていたことに衝撃を受ける。