友情結婚~恋愛0日夫婦の始め方~
「これ、時効だと思うから言うけど」
大崎が笑いながら、声をひそめる。
「俺さ、高校んとき、のぞみと一回したんだよね」
どくんと、大きく心臓が脈打つ。
「……は? 何?」
喉が絡む。
うまく声が出ない。
それに気づかない大崎が、話を続ける。
「どうしてだったか忘れたけど、なんか二人きりになったことがあって。俺さあ、そんとき童貞で」
大崎が笑う。
「なんかのぞみなら受け入れてくれそうな気がして。そうだな、友情でセックスしたみたいな感じ? でもいざそうなったら、あいつも初めてで」
周りの音が遠ざかる。
まるで水の中に入っているみたいに。
でも大崎の言葉だけが、ダイレクトに琢磨の鼓膜を振動させた。
「俺の下でさ、泣いてんの。いつもはそこらへんの男友達と変わらないような態度だったくせに、そんときだけやけに『女』で。なんかぐっと来たんだよな」
「へえ」
絞り出すような声。
けれど、琢磨は仕事でするような笑顔で、大崎の話に耳を傾ける振りをした。
「久しぶりに芹沢に会ったら、そんときのことスッゲー思い出して」
大崎は肘をつく。
「芹沢、アリだなあって思った。今あいつがフリーなら、押してみようかな」
琢磨はビールをぐいっと飲み干した。
「いいんじゃないの? 押せば?」
そう言った。
そこで初めて、大崎が違和感を感じたらしい。
「桐岡?」
ガタンと椅子を引く音がしてはっと顔を上げると、いつのまにかのぞみが席に帰ってきていた。
「何話してんの?」
「別に」
自分の声が、必要以上に冷たいことに気がつく。
大崎はずっとこちらをみている。
琢磨は席をたった。
「ちょっとトイレ」
足早にテーブルを離れる。
宴会場の出口のところで振り返ると、のぞみと大崎が顔を寄せて楽しそうにはなしているのが目に入った。
—吐きそう。