友情結婚~恋愛0日夫婦の始め方~
「じゃあ、ルールでも決めよか」
各部屋のドアをパカパカ開けて確認しているのぞみに、琢磨は話しかけた。
「ルールって?」
のぞみが振り向いて首をかしげる。
「ほら、一緒に住むにあたりのルール、あった方がいいだろ?」
お財布は別にするのか、とか、家事の当番とか。
「えー、めんどいよ」
とたんにのぞみが難色を示す。
「適当でいいじゃん」
「お前はいいかもしんないけどさあ」
琢磨は高校時代を思い出した。
とかくのぞみは面倒臭いことが嫌いだった。行き当たりばったりだ。
「暮らし方が違うって、衝突すんの嫌だし」
「大丈夫だって」
のぞみが能天気に笑う。
「だって、変な感情ないじゃん。その都度話して決めればいいよ。だいたい、暮らしてもいないのに、何が問題かわかんないよ」
そう言った。
のぞみの素材は悪くない。けれど、すべてがアバウトで、所作ひとつひとつに女性を感じさせない。
高校時代も、スカートを履いているのにまるで男友達と話しているような気になったものだ。
腰に手を当てて、偉そうにノールールの必然性を話すのぞみは、どこか雄々しい。
「ま、いっか」
琢磨は諦めた。
きっと今ルールを決めても、のぞみは守れない。そもそも、のぞみにそんなこと求めてないように思う。ただ、結婚という事実が欲しかっただけで、相手は恋愛感情を抱かない人なら誰でもよかった。
いや、気の合う友達なら、最高だけど。
「じゃ、引っ越し祝いする?」
のぞみがビールを飲む仕草をする。
「いいよ。飲も」
琢磨は笑った。