友情結婚~恋愛0日夫婦の始め方~
のぞみが帰宅するのは、6時半。
琢磨はいつも深夜。
ちゃんと話し合う時間はほとんどない。
買い物袋を玄関にどさっとおいて、電気をつける。
新築マンションの匂い。
誰もいない部屋。
のぞみは冷蔵庫に食材をしまってから、お風呂にお湯を溜めた。
そして、カバンから食べられなかったおにぎりを出して、ゴミ箱に放りこむ。
どこかでちゃんと琢磨と話さなくちゃいけない。
明日は土曜日。
この間の広島みたいに、二人で楽しいことをしよう。
高校時代、町になかったから断念したカラオケでもいい。
とにかく笑えることを。
そしたらまた、琢磨と向き合えるかもしれない。
ゆっくりと湯船に浸かって体が温まった。
濡れた髪をドライヤーで乾かして、いつものスウェットを着る。
ブラを着けるか迷って、でもつけない。
この五日間迷い続けている。
下着をつけたら、琢磨を男性として意識していると、バレるんじゃないだろうか。
琢磨は自分にそんなことを求めていない。
もう恋愛をしないつもりで、のぞみと結婚したのだから。
琢磨の最後の恋は、しとやかで華やかな、あの元カノ。
どす黒いものが溢れそうになって、押さえつけるように胸を押さえた。
下着のない、柔らかな膨らみを手のひらに感じる。
ついこのあいだまで、自分が女であることも、醜い感情も、無縁のところにいたのに。
どうしてこんなことになってしまったんだろう。