友情結婚~恋愛0日夫婦の始め方~
リビングに出ると、スマホが鳴っているのが聞こえた。
カバンの底から取り出すと、急いで通話ボタンを押す。
『もしもし?』
スマホの向こうで、明るい声が聞こえた。
「大崎?」
『ああ、今大丈夫?』
「うん」
のぞみはソファに飛び乗ってあぐらをかいた。
大崎の声にホッとする。
ずっと琢磨の冷たい声を聞いていたから。
『今どこにいんの?』
「家だよ」
『一人暮らし?』
「うん」
躊躇なく出る嘘。
『この間は久しぶりに会えて、嬉しかったよ』
「わたしも。大崎かわんないんだもん」
『そうかな』
「そうだよ」
『あのさあ、桐岡とあの後連絡とった?』
大崎の突然の質問に、のぞみはドキッとする。
「してないよ」
『そっか。じゃあ、まあいいや』
「なに?」
『桐岡と話したいことがあって。でもいいよ、俺連絡する』
大崎は、のぞみの問いを、さりげなくスルーした。
『のぞみって、平日早い?』
「うん。定時で上がれる」
『じゃあ今度、久しぶりに飲まない?』
「もち! いいよ。二十歳ん時、一度会ったよね。そいで飲んだ」
『覚えてる?』
「覚えてるよー」
ふと顔を上げると、目の前に琢磨が立っていた。
コートを着たまま、のぞみを見下ろしている。
その瞳の冷たさ。
—気がつかなかった。
のぞみは「ごめん、ちょっと電話かかってきちゃった。また後でいい?」と話す。
『いいよ』
大崎は何も疑わない。
のぞみはスマホの通話終了を押した。
そして見上げる。