友情結婚~恋愛0日夫婦の始め方~

「早いじゃん、今日」
のぞみは努めて明るく、そう言った。

「今の、大崎?」
琢磨の声は抑揚がない。

「そう。今度飲まないかっていうお誘い」

のぞみがそう言うと、琢磨はのぞみから目を背けた。

コートとジャケットを脱いでソファに投げる。
いつもすぐハンガーにかけるのに、今日は気にもしていない。
苛立ちながら、乱暴にネクタイを緩める。

でも何も言わない。

「ほら、怒ってる」
のぞみは言った。

「何に怒ってるか、言ってもらわなきゃわかんないよ」

琢磨はネクタイをもぎ取るように脱いで、ダイニングテーブルに投げ捨てた。
髪をかきあげ、怒りをなんとか収めようと深く呼吸する。

「別に怒ってないよ」
絞り出すような声。

「なんなのよ! 逃げるなんて、男らしくないよ!」
「じゃあ、言うけどっ」

琢磨の怒声が、リビングに響いた。
はっとのぞみが口をつぐむ。

「大崎はお前ねらってんだよ。あわよくばヤろうと思ってんの! なんでそれに気がつかねーんだよ」

のぞみは「はあ?」と声をあげた。

「何わけわかんないこと、言ってんの! 大崎、友達じゃんっ。友達なら普通に電話するし、飲みにだって行くよ!」
「お前は、友達と寝んのか?!」

琢磨が怒鳴った。

のぞみは黙る。

知ってる。
琢磨はあのこと、知ってるんだ。

「あれは……」
自分で思ったよりもずっと小さな声がでた。
体が細かく震える。

琢磨は疲れたような顔をみせた。
怒鳴っているけど、腹を立てているけど、瞳には諦めと不安とが入り混じる。

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