友情結婚~恋愛0日夫婦の始め方~
「お前、大崎のこと好きだったのか?」
琢磨が揺れる声で尋ねた。
「俺が知らなかっただけか?」
「違う」
のぞみは首を振った。
「大崎は友達だった。あの時も、今も友達」
「じゃあなんで寝るんだよ……。俺たち四人で、友達だったじゃないか。純粋に相手を思えたじゃないか。そう信じきってたのは、俺だけなのか?」
のぞみは右手で左手の袖を掴む。
ちぎれるほど強く掴んだ。
「大崎が望んだから、寝た。それだけ」
今にも泣きそうだ。
唇を噛み、溢れる涙をこらえる。
琢磨は髪をかきむしった。
「お前は望まれれば、だれとでも寝るような女なのか!?」
パンッ。
弾けるような音が響く。
気づくと、のぞみは琢磨の頬を平手で打っていた。
琢磨を睨みつける。
「大崎はあのとき、女として私を必要とした。大崎のことはなんとも思ってなかった。好きじゃない、少しも」
肩で大きく息を吸う。
「でもあのとき、嬉しかった! 男友達っていう求められるポジションに、自己否定と自己憐憫。その毎日の中で、女として求められて大切にされる喜びを、大崎はわたしにくれたの!」
のぞみは、琢磨の頬を打った手のひらの痛さも忘れて、叫んだ。
「だから寝た。だから初めてをあげた。後悔してない。あのとき確かに、空腹だったわたしを大崎が満たしてくれた」
琢磨のほほは赤くなっている。
「何いってんだよ……。俺だって、のぞみを大切にしてたよ。特別だったよ。なんで……」
琢磨がつぶやいた。
のぞみは口を開いた。
これを言ったら、もう終わり。
解っているけれど。
「琢磨は、わたしのことを一度も女として求めなかったでしょ?」