アイより愛し~青の王国と異世界マーメイド~
「……あたし…?」
『マナが持っていたいたアタシの貴石を…アタシに返しておくれ』
言われるままに、手の平の上の貴石…お母さんがずっと身に付けていたほうを、リズさんに差し出す。
これがもとはリズさんのものであるならば、あたしにはもうそれどうこうできる権利はない。
リズさんがあたしの手の平に両手をかざし、それに応えるように貴石が光った。
眩いばかりの白い光。
もう片方の手でそれを遮りながらも目の前で、リズさんの貴石が少しずつ光に溶けていくのが見えた。
リズさんの中に。還っていくのだ。
零れたもの、力の欠片が。
『…おそらく、これは。マナがアンタに残していったんだよ』
「…そんな、はずは…」
『マナは貴石の扱いは心得ている。もしもこれを誰にも渡す気がなかったのなら…きっとマナは死ぬ前に自ら飲み込んでいた。それくらいならできたはずだ。だけどわざと、遺していった。マオ、残せばきっとアンタの手に渡ることをマナは知っていたのさ』
幼い頃、確かに何度もお守りの石を欲しいとねだったことはあった。
お母さんは笑って流すだけで、それが叶えられることはないと思っていた。
だからこそ。あんな幼稚な手段でしか、手に入れられなかった。
『それはきっと…いずれこうしてアタシの元へ、返す為。この瞬間の為に…マナが託したんだよ。いつかのアンタを、救う為に』
そう言ったリズさんは、一粒だけ涙を零す。
光る雫はゆっくりと、液体から結晶へとカタチを変える。
――貴石、だ。
さっきのリズさんのものとは違う。
それはこの手の中に残ったもうひとつと同じかたち、同じ色の貴石――
『アタシの分の、約束の貴石(いし)だ。消えかけたアタシと同化して、取り出す魔力も残っていなかった。あのままでは、アタシと共に滅びる運命だった。アンタが、くるまでは』
最後の奇跡を差し出すのと同時に、リズさんから光が失われていく。
状況が上手く呑み込めないながらも震える手でそれを受け取って、手のひらに並べた。
かつてお母さんがみっつに分けた、約束の貴石(いし)。
お母さんの分と、リズさんの分。
残るは、ひとつだけ。
「…これが…どう、関係して…」
『もうひとつは、ベリルが持っていた。シェルスフィア最初の王で、アタシの夫だった男。アタシ達三人はあの頃…戦友だった』
シェルスフィアの最初の王様。
つまりはシアの、遠い祖先だ。
シェルスフィアの建国は900年も前。
その貴石は、おそらくはもう――
『分かたれたみっつの貴石。アンタならひとつに…元のかたちに戻すことができる。…そうだろう…?』
貴石を、ひとつに…?
ふと、アクアマリー号の船員たちへの、お守りとして作った貴石のブレスレットが頭に浮かんだ。
液体を結晶化し、繋げたもの。
加護を施したお守りだ。
あの作業のおかげでか、結晶化の作業は大分慣れたものとなった。
そして、イリヤの首飾り。
イリヤが言ったのだ。
“逆もできるか”と。
そうして解いたイリヤの呪い。
結晶が、液体になり――
そして液体はまた、結晶になる。
『遥かなる時を越えて…アタシ達の約束を繋げておくれ、マオ。そうすればアンタの望む力になる。道が拓く。それはきっと、アンタにしかできない』