アイより愛し~青の王国と異世界マーメイド~
3
「…!」
「ぐずぐずすんな、さっさと済ませるぞ」
「えっ、な、なにを…!」
いきなりぐいと手をひかれ、部屋の中に引っ張り込まれる。
それからレイズはガチャリと。扉の鍵を閉めた。
「…どうして…閉める、の…」
余計なことは訊かない方が良い。
だけどあまりの恐怖に、声に出さずにはいられなかった。
掴まれた手が痛い。振り解けない。
蜂蜜色の髪の隙間から、またあの瞳。
頭のてっぺんから爪先までその視線が這う。
ジャラリと腕のブレスレットが鳴った。
「他のヤツらには、見られたくねぇことするからだよ」
言ったレイズはそのままあたしの手を半ば強引にひき、部屋の奥にあったベッドに放った。ギシリと古いベッドの軋む音が、船の揺れに重なった。
「服、脱げ」
――抵抗はすべて無駄だった。
ベッドの上に組み敷かれて、どこからか出てきた布で腕を縛られた。
レイズの頬にはついさっきあたしが引っ掻いた跡が赤く走る。
縛られた腕はその報復だ。
しかめっつらのレイズは心底面倒くさそうに着たばかりのあたしの服を剥いだ
あたしは涙目で睨みながら、ぎゅっと唇を噛みしめる。
数分前、叫んだその後でまた強引に口を塞がれて、「舌噛み切るぞ」と脅された。
普通逆だと思う、その脅し文句は。
でもあたしはレイズにとって人質でも価値のある存在でもないので、当然だった。
平常時にされたキスは衝撃的すぎて、一瞬の隙にあたしはレイズに組み敷かれて今に至る。
そんな場合じゃないけど。
今さらだけど。
本当にそんな場合じゃないことは、分かっているんだけれど。
――ファーストキスだった。
海で溺れた後のやつあれこれはカウントしないと決めていただけに、ショックだった。
正真正銘、最悪なやつ。
目の前のこの海賊も、あたしのファーストキスも、今のこの状況も。
「手間かけさせやがって、別に痛くはねぇよ」
「……っ」
その物言いにカチンときたけれど、言葉が出ない。
文句を言ってまた強引に唇を塞がれるのがイヤだった。
こわくて悔しくて、涙が流れた。
ひかれるように唸るように、小さく言葉が漏れる。
無意識に出た恨み言に近かった。
睨んだ目が交差する。
「…見損なう…ジャスパーはあんたのこと、優しいって言ってたのに…!」
「は、海賊相手になに言ってんだ」
それは、正論かもしれない。
自分が、甘いのかもしれない。
だけど理不尽だ。
ただ黙って受け容れるだなんて、できないししたくなかった。