アイより愛し~青の王国と異世界マーメイド~

「…わかった。努力する」
「いいだろう。それから、この船で特別扱いはしない。船の見張りに加わってもらう。交代制だ、最初はジャスパーと一緒にやれ。だが、ある程度の処遇は考える。ガキとはいえ女だしな。部屋はこの部屋を使え。ここなら内から鍵がかかる。ただし変なマネしたら即海に投げ捨てるからな」

 また物騒なことを言いながら、腕をしばっていた布を解いてくれた。
 流石にもう抵抗しないと判断したのだろう。

「わかった。そのかわり、レイズ。あたしはもう15だよ。ガキ扱いしないで。それと今後許可なく、触れたりしないでほしい」

 体を起こしながら剥がれた衣服を集めて、見よう見まねで体に巻きつける。
 いまいち着方が分からない。後でジャスパーに教えてもらうか、制服が乾いていたら着替えたい。

 胸元に視線をやると、肌に咲くような青い色。
 心臓から延びる蔦のように、青い文様が鎖骨あたりまで描かれているのが布の隙間から見える。

「…ほう、言うな。確かに15は立派な成人だ。だがこの船に居る以上、おまえは俺に従う義務がある。それに触るなと言われると触りたくなるな。この船の男共は皆女には飢えてる」

 言ったレイズの目が細められ、あたしを見据える。
 また、獲物を見るような目だ。
 彼の放つ空気がそう見せる。
 だけど負けじとあたしも精いっぱい睨んでやる。

「キスも肌に触れるのも、信頼の上に成り立つものよ。あんたと恋人になりたいとは思えない」
「は、俺だっておまえみたいなガキは願い下げだ。どこ触ってもつまらな過ぎるし」
「だからガキじゃないってば! とにかく、キスは好きな人としかしたくない!」

 叫んでから、思わず口に手をやる。
 自分でも意外だった。
 たかがキスに、そんなにこだわるだなんて。

 だけどあたしは今まで彼氏も好きなひとも居なかった。
 別にいつか王子様がなんて夢見ているわけはないけれど、それでも。
 恋に憧れている気持ちがないわけじゃない。
 ――ただ、好きなひとがいい。
 許すひとは、選びたい。
 だって大事なものでしょう?

「キスなんて挨拶代わりだぜ?」
「あたしが育った場所では違う。そんなカンタンに、触れていいものじゃない」

 言いながら唇を噛みしめる。
 言葉にすると、どうして。
 ひどく子どもじみた理由に思えた。

「…くっ、面白いなおまえ」
「そんなの求めてない、笑われるようなことを言ってるつもりもないし」

 じろりと睨むと、レイズは今までみた中で一番小馬鹿にしたように、至極楽しそうに笑っていた。
 それが余計に幼稚だと言われているようで腹が立つ。

「ガキ扱いは検討しよう。だけど船乗りにとって腕の中に抱いた女にキスをするのは流儀だ。ただ肌に触れるなというのはな…船員の刺青は船のルールだ。誰かにやってもらわなくちゃならない。まぁ〝触れられてもいい相手″とやらを見つけて、やってもらうんだな」
「自分でやっちゃダメなの?!」
「守りの呪は他人にやってもらうことに意味がある。俺が毎日、やってやってもいいが?」
「だったらジャスパーに頼むからいい!」

 なんて厄介なルールだろう。
 だけど集団生活や特別な場所に置いて、それは最も重視しなければならないことだということは、学校でも学んでいることだ。
 その場所にはその場所のルールがある。

「まぁせいぜい3日の付合いだ。気を付けるんだな、いろいろと」

 ひどく意地の悪い笑みを向けたレイズはベッドから立ち上がり、それからぐしゃりとあたしの頭を乱暴に撫でる。

 触るなって、言ってるのに。
 睨むけどちっとも効かない。
 絶対面白がって、わざとやってるんだ。

 環境が違い過ぎるのだ。
 そこはもう、どうすることもできないだろう。
 ましてやあたしは拾われの身だし。

 あたしもなるべく気にしない努力をしながら、自分の身を守るしかない。
 そしてこれからのことを考えなければいけなかった。

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