アイより愛し~青の王国と異世界マーメイド~
「…そういうものでしょうか」
「さぁ。実際は分からないけど。今度話せた時に聞いてみるよ」
トリティアがこっちからの呼びかけに応えてくれたことは無い。いつもあっちからの一方的なものだ。
でもそういえば。
トリティアはいつも、あたしの意思を確認してきた。
あたしに、選べと。
トリティアが本当に選ばせたい未来は、どっちなのだろう。
「神の意思という概念は、我々には無かったものですね。神は一方的に奪うだけの存在でしたから」
「でも神さまの力に助けられてきたのも確かでしょう?」
「それはそれを従える王族の方たちの意思によるものです」
「…そっか、なるほど」
神さまの力がどんなにすごくても、民はそれを従える王族というフィルター越しに見ているだけなんだ。
少なくともこの国では、王族崇拝主義らしい。
奪われる世界に居たら絶対的な力というのは、崇拝に値するのかもしれない。
「確かにこの力が王族以外の手に渡ったら、厄介だね」
それと同時に、この国が…シアが失ったものの大きさも知る。
国民に意思を問うたシアの気持ちも。
「なんにせよ“契約”という概念にそう差は無いと私は考えます。魔力なくしてその力を制御することもまずできないでしょう。魔力の使い方を貴女は学ぶべきです。私から見ても貴女の魔力の制御はひどく不安定ですから」
言ったクオンが懐から何かを取り出す。
その手の平を広げて見せたそこには、紫色の石があった。
宝石だろうか。もしくはパワーストーン的な。
「我々魔導師にとって貴石は、魔法を使う上でとても重要なものです。海でとれる貴石にはもとより魔力が宿っていて、往々にして我々はこれを利用します」
貴石…確かシェルスフィアは貴石の国だとも言っていたっけ。
それを狙った他国からの略奪も多いって。
ふと思い出したように、シアに返してもらってから再び首に下げていたお守りを思い出す。
一度失くしてからなんとなく、ふとした時に確認するようになってしまった。
セーラーの胸元に手をあて、感触を確認しほっとする。
それからチェーンをひっぱり確認しようとしたその時だった。
「……えっ」
慌てて取り出し手の平に乗せる。
その光景に思わず目を瞠りながら。
「な、なにこれ…!」
「…これは…」
お守りが、光っていた。
青い石の中央に閉じ込められたような光がゆらゆらと揺れている。
石の中でその光は、何かに呼応するように形を変える。
それは今なお耳に聞こえているものと同じリズムを刻んでいるように見える。
ちがう、たぶんきっと、そうなんだ。
「この歌に、反応してる…?」
それはあたしにしか聞こえないという不思議な歌声に、応えているように見えた。
あたしの手の中を覗き込んだクオンが目を瞠る。
屈んだ背の影があたしをすっぽり包み込んで、その中で石はまだ尚光り揺れていた。
「…これは、この国の貴石ですか…?」
「う、ううん、ちがう、はずだけど…」
お母さんがずっと大事にしていた、お守り。
それがこの世界の貴石であるはずない。
だけど、でも、じゃあ。
どうして今、反応してるの?
ずっとずっと、ただの石だと思っていた。何の石なのかすらも分からない。
お母さんは教えてくれなかったから。
だから勝手にお母さんの誕生石かなくらいにしか、思ってなくて。
それ以外の何かだなんて、考えたことなかった。
「貴石を使った魔力制御と魔力の質やタイプを見てみたかったのですが…先送りしましょう。私も貴女にしか聞こえないという現象については気になっていましたし、可能性を探ってみましょうか」
「…え?」
「まぁ航海中も時間はあるでしょうし、目先の問題から片づけていくのが得策かもしれません」
「クオン?」
「この場所を選んだのは貴女の力を見るのに海の近くが良いと思ったのと、もうひとつこちらに気になることがあったからです」
「…それって…」
クオンは持っていた紫の貴石をまた懐にしまい、そして剣を鞘に静かに収める。
それからふと向けた視線の先には、カラフルな旗と人だかり。
ずっと歌が、聞こえている方向。
「おそらくあのギルドの目玉商品とやらが、そうなのでしょう。貴女か、もしくは貴女の中の存在を…呼んでいるのかもしれません」