永く青い季節 〜十年愛〜
「あ、あのさ…、名前聞いてなかった」
後ろからかけられた声に振り返る。
「槇野です。槇野美織」
「そ。槇野美織ちゃん、その…シッポ…」
「え?シッポ…?」
「えっと、何だっけ。あ、ポニーテール!先っぽから雨の水、滴ってる。ちゃんと拭いとかないと風邪ひくよ」
私は後ろで結んだ髪の先を手で触ってみる。確かに絞れそうなほどの雨水を含んでいた。
ポニーテールが思い付かずに、シッポだなんて…。
廊下を走って行く彼の後ろ姿を、私は苦笑しながら、時間も忘れて見送っていた。