永く青い季節 〜十年愛〜
「美織ちゃん、…俺ならここだけど…」
背後からの声に、驚いて振り返る。
「えっ?先輩までどうして降りちゃってるんですか?あ、ドア閉まっちゃう…」
慌てる私の横で電車のドアは閉まり、動き始めた。
「え、どうして?何やってるんですか?」
「いや…。だって、言いたかったこと、言えてなかったから…」
電車を降りた乗客が二人の横を通り過ぎて改札へ向かう階段に消えて行き、ホームには彼と私だけになった。
「我ながらダサいな…。何度も言えるチャンスがあったのに」
彼はそう言いながら頭を人差し指で軽く掻くと、目線を落とした。
私は戸惑ったまま、彼の顔を見ている。